東京に慣れたらバイト探しだ。
フロムエーを買ってきて(フロムエーは昔は雑誌で、買うものだったんだぞ)ペラペラめくる。
「ちょっとマスコミ」というカテゴリーに興味がそそられる。私は放送作家になりたいと高校時代から思っていた。テレビ関係の仕事はないか探した。が、その号には載っていなかった。その代わりにエキストラの仕事があり、都合のいい日だけ参加可とのことだったので、履歴書を書き渋谷の事務所へ。
古ぼけたビルの上階にエレベータで上がれば薄暗い事務所。対応したのは、なんかその筋っぽい感じの社長(と自分で言っていた)とやり取り。
「エキストラじゃなくてさ、本気でタレント目指さない?」
「はっ?」
「そこの彼なんかT○Sの『ガチ○コ』に出てるんだけど見たことない?」
「ガチ○コ」とは当時放送されていたTO○IO司会の素人参加番組で、プロのスパルタ指導のもとラーメン屋を目指したり、漫才師を目指したり(『足軽エンペラー』時代の『南キャン』の山ちゃんも出ていた)して、そこで先生にガンガンしごかれ、それに反抗したり、生徒同士ケンカをしたりするという、ハプニング満載のハラハラさせる番組だった。
「彼なんか『ガチ○コ』に出てる」
やらせって本当にあったんだ・・・。私の中では都市伝説だった「やらせ」が現実のものとなった。社長は続ける。
「エキストラじゃなくてさ、本気でやってみたほうがいいよ。タレント目指してさ。君ならできるよ」
ろくに会話もせずに「君ならできる」と言われても、と思ったが「やらせ」という犯罪っぽいものを平気でやっている人(やらせている人?)を目にして私はちょっとビビっていた。
「どう?」
「は、はい、やってみます・・・」
そう言うしかなかった。
「そう。じゃあ宣材写真とるから。普通なら8万円するんだけど、今なら6万円になってるから。払える?」
なーーーーーーーーにーーーーーーー!
6万円払うのーーーーーーーーーーーー!
「払えるの?」
「いえ、『今は』ちょっと・・・」
今は、なんて言っちゃったよ・・・
「じゃ、あとで振り込んどいて。おーい、この子あとで振り込みね」
うわー、大変なことになった。
「じゃ、がんばりましょう」
「は、はい・・・」
と、あいさつもそこそこに逃げるように帰宅。どうしたらいい? 考えに考えて、その事務所に「すみません、払えません、エキストラ辞退します」みたいな手紙を書いて、その日のうちに投函した。
それからの日々、その事務所から電話がかかってこないか、自宅に押し掛けてこないかビクビクの毎日だった。
しかしT○Sはこの現実を把握していたのだろうか?
テレビの半分はやらせでできています。
東京は怖い。。。